蕎聖と謳われた、友蕎子・片倉康雄氏。
大正15年神田で店を立ち上げ、後、蕎麦打ち教室をも開き、
今の名だたる蕎麦屋の元を築いて来られたお方。
その氏の意思を、三代目英統氏が今に引き継ぐ「横浜一茶庵」。
ここの教室で学ばれた方のお店に、どれだけ訪れた事だろう。
一度、その源に訪れてみたいと、長年思っていたところ…
昨夜は、恐れ多い、うれしいお招き。
どきどきしながら、心はやる気持ち押さえ、東横線に乗り込み横浜へ 。
東京にはない、港町独特のハイカラな風情溢れた元町通り。
その煌びやかな通りから、一本の路地を曲がり歩いていくと…
一階に和菓子の店舗をしつらえた、上品な建物に行き当たる。
ここが…
しばし、しみじみと建物を眺め、横の階段を上り店内へ…。
横浜 「横浜元町 一茶庵」
やや緊張しながら、扉を開き入ると、
目の前には、ゆったりと流れる、気品ある老舗の空気。
ぐるりを窓が囲み、磨き抜かれた艶やかな飴色のテーブルに壁。
ああ、なんて心地いい、落ち着いた空間なんだろう…
壁には、友蕎子の、例の直筆の書が掲げられ、
ゆっくり見渡していると、用意して下さっていた奥の小上がりに通される。
これも素晴らしい、茶心に通じる「もてなし」「しつらえ」を心得た座敷の間。
床の間のしつらえに、掛けられた書、床脇違い棚の造りなどなど…
随所に片倉康夫氏のお心が、染みわたっているよう。
と、しみじみと眺め、奥のテーブルに腰を下ろし…、
まずは、乾いた喉を潤わせたくビールを注文。
この呼び鈴が、又風情あるなあ…
素敵なグラスで、くぅ~っと喉を潤わせ…、
程なく出された、「三種盛り」。
かりっと香ばしく表面を焼かれた、正統な「焼き味噌」は、
とろりと柔らかく、中に入った蕎麦の実がカリカリとした歯ごたえに…
風味豊かな「おぼろ豆腐」に、
からりっと揚がった、出来たての「薩摩揚げ」がとても美味しい。
と、これらのお料理に早速お酒を。
中から「緑川」をお願いすると、趣ある鉄瓶で施される。
注ぐのも楽しく、すっきりとしたお酒はさらにおいしく感じられ…
次に出されたのは、京都直送の「湯葉の刺身」。
これに、お代わりで「澤屋まつもと」の熱燗をお願いすると、
これも、肌触りの心地いい、備前の徳利に注がれ出される。
とろりと滑らかで、濃厚な湯葉に、瑞々しい山葵もたっぷり。
熱燗を口にしながら、ゆっくりと味わっていると…
これはうれしい、大好きな「蕎麦寿司」まで
この蕎麦寿司が、すこぶる美味しい。
味付けされた酢の加減が絶妙で、きりっと巻かれた具と蕎麦が一体になる。
添えられた出汁醤油が、ぴたりと合う汁で、この蕎麦寿司にすっかり感動。
「そばがき」は、湯に浸し出される、所謂「掻きっぱなし」。
すくい上げると、ふわっと濃厚な蕎麦の香りが鼻孔にのぼり、
もちもちとして、滑らかに溶けながら、口いっぱい蕎麦の風味で満たされる。
ああ、この蕎麦がき、これは、美味しい
片倉さんを前にし、緊張していた心も、次第にほぐれていきながら、
続いて出された、織部の器に美しく盛られた「かしわ焼き」。
皮目がぱりっと、中はふわりとしてジューシーな鶏肉に、
とろりとした葱が寄りそい、タレが又絶妙 。
お料理の締めくくりは、「才巻海老の天麩羅」。
置かれた瞬間、はっとするような、繊細で上品な何て美しい天麩羅だろう…!
食べずとも見てとれる、極上の天麩羅で、
頭がかりっと軽やかに零れ、濃厚な旨みが口に広がり、
身の火の入り具合が絶妙な、衣薄く揚げられた、才巻海老。
海老の旨さが、十二分に引き出された、レベルの高い天麩羅に…
どれをとっても、何一つ手抜かりない、上質なお料理に感無量。
魯山人と交流のあった氏ならでは、器一つ一つまでの心遣い、
ああ、さすが一茶庵、素晴らしい…。
そして、いよいよメイン、蒸篭に盛られた三色盛り。
一糸乱れない、端正に切り揃った「せいろ」は、香りも豊か。
しっとりと心地のいい腰があり、噛みしめるそばからするりと喉元に落ちて行く。
軽やかで繊細、香りに風味もしかと携え、微粉の良さがしみじみと感じる、
さすがだ、これは美味しい…
これまで、「一茶庵系」のお蕎麦はたべてきたけど、
やはり、「一茶庵」は全く違う、とこれも感動し…
一茶庵特有の変わり蕎麦、柚子切りが又素晴らしい。
ふわっと広がる、柔らかく爽やかな柚子の香りに、まずうっとり。
口に含めば、ぷるぷるとした腰の軽やかな感触に、
途端に、溢れるように広がる清々しい柚子の味わい。
お、美味しい…
辛口の中に、ほんのり優しい甘みも感じる、まろやかな汁が又旨く、
あれだけ食べた後なのに、するすると喉に入って行く。
そして、これがびっくりした、一茶庵での「粗挽きそば」。
丸抜きの蕎麦の粒が、ひしひしと重なりあった、美しい蕎麦に一瞬見とれ、
手繰る間に、立ち込める香ばしい香りに、
口に含めば、しなやかで流麗な感触。
噛みしめると、キシキシと蕎麦の粒々の感触が感じられ…
豊かな風味と一緒に、ほろりと喉に消えて行く。
これは、美味しい~っ
繊細で、滑らか、それでいて蕎麦粒の存在をしかと感じる粗挽き蕎麦。
お、美味しい…、、、と、悦に入っている私に、
「一茶庵で粗挽きは珍しいでしょう」
と、ゆっくりとほほ笑まれる英統さん。
今、粗挽きが面白くてね…、と今は粗挽きも出されているそう。
一茶庵での粗挽きの、又素晴らしさ。
ここも又、進歩進化しているんだ…と、又興奮してきそう。
最後のデザートの、これも極上の「わらび餅」を頂いて…
優しく柔らかな物腰で、気品のある英統氏。
お弟子さん一人一人はもちろん、習われた方すべてを覚えている、素晴らしさ。
お会いでき、お話しをお聞き出来た事に、感無量。
一茶庵から、羽ばたいて行く方々の姿を目に浮かべながら…
蕎麦の深遠なる一片を、垣間見られたようで、
興奮したまま、お店を後にし東京へ。
ご馳走様でした、そしてありがとうございました
又ふらりと、ここに憩い味わいに訪れたい…。
***********
食はすべてそのもとを
あきらかにし
調理をあやまたず
そこのうことなければ
味はいすぐれ
からだを養い
病をもいやし
よく人をつくる
友蕎子・片倉康雄(一茶庵創業者)
**********
「横浜元町 一茶庵」
神奈川県横浜市中区元町1-40
045-664-6651
11:30~15:00 / 17:00~21:00
(土日祝)11:30~21:00
月曜・第2・4火曜定休
禁煙
お店のHP
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落ち着いた、清潔感溢れた店内で手繰る蕎麦はいいですよね。
一茶庵の真髄を感じさせます。
私もひとりで、ふらりと又訪れて見たくなりました。
関内のコンフォートホテルからけっこう歩きました(笑)
三色盛りを美味しくいただき、いい空間で時間過ごせました(^^)v
14:00くらいに行きましたが、女性のお一人客もいらっしゃって、落ち着いた感じですね。
元町自体が素敵な場所ですし。
坂の上の蕎麦屋さんとくっつけて訪問を検討してみたいと思います。
横浜に住んでいたんだよね(^^)。
学生時代にここに通っていたなんて…
贅沢ですよぅっ!(笑)
私が、初めてしらゆき(更科)というものを食べたのは、上杉でした。
あの時の、驚きと感動は、三棒庵様同様、今でも忘れられません。
横浜一茶庵、素晴らしいです。
ぜひ、訪れてみて下さい。
感想、お待ちしています。
三代目のご主人も、しかと受け継ぎ、さすが一茶庵、と私も感動したひと時でした。
是非、お帰りになった際には…
海を越えて、読んで下さっているのかと思うと、私もとてもうれしいです。
鮮烈で繊細、舌の切れる・・・とは、
まさにこの食感なり!
と今もあの感動を憶えております。
一茶庵の味を堪能しに、
今度は横浜にも足を伸ばそうかな♪
最近は、ブログお休みで、寂しく思っておりました。
ところで、ここは是非とも!です。
お料理から、蕎麦、すべて完璧なひと時に、感無量でした。
さすがだと、唸るばかり…。
是非、行かれて下さい。
粗挽きが、殊の外感動の蕎麦でした。
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